盛岡地方裁判所 昭和31年(レ)18号 判決 1959年2月03日
控訴人 榎本末吉
右訴訟代理人弁護士 中村伝七
被控訴人 滝野潔
右訴訟代理人弁護士 尾沢清太郎
主文
原判決を取消す。
原裁判所が同庁昭和三一年(ト)第一九号仮処分申請事件について同年五月九日にした仮処分決定を取り消す。
被控訴人の右仮処分申請を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文第一項および第三、四項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、
被控訴代理人において、
一、(イ)被控訴人の先代滝野千太郎は明治三五年一月二九日、別紙物件目録に記載の各土地(以下これを「本件各土地」という)を含む二戸郡荒沢村(町村合併により安代町となる、以下同じ)大字荒屋字高畑九五番の四のうち八反七畝六歩を、御料局より賃借していた訴外亡大森卯之吉の相続人同マツから賃借権の譲渡を受け、以後、昭和一七年一〇月三日右千太郎が死亡後は被控訴人がその地位を承継し、同二一年一二月末日までこれを引き続いて賃借していたが、同日限りその賃貸借は期間満了によつて終了した。(ロ)また右千太郎が前記八反七畝六歩の土地を賃借したのち、その土地は一六九番、一七〇番、一七一番と三筆に分筆され、ついでその土地が大蔵省に所管換になつたのちの昭和三一年五月頃、一六九番をさらに同番の一、二、三と分筆付番された。
二、被控訴人は本件各土地を控訴人の先代榎本金作または控訴人に転貸したことはないが、二戸郡荒沢村大字荒屋字高畑一七〇番原野一反五畝二四歩(以下これを「訴外地」という)を昭和二〇年春頃、右金作に対し賃貸(転貸)したことがある。
三、岩手県農地委員会において、控訴人が後記第三項で主張するような決定をしたとしても、その当時本件各土地は国有の農地であつて大蔵省が所管していたが国有農地を処分するにはこれを農林省に所管換えをしたうえでなければならないのに、その手続をしていないから、右決定は何らの効力をも生ずるものではない。
四、農地についての所有権の移転がなされるためには、農地法所定の手続を経てしなければならないのがたてまえであるが、しかし本件各土地は山林または原野として被控訴人が国から落札し、これが所有権を取得したのであるから農地法の適用を受けない。かりに右の場合に農地法の適用があるとしても、本件各土地のようにもともと農地でないものを控訴人において何ら正当な権原がないにもかかわらず不法に開墾し、これを事実上農地とした場合には同法の適用を受けることはないと解すべきであるから、右各土地の所有権の取得が農地法所定の手続を経ていなくても無効となるいわれはない。
と述べ、
控訴代理人において、
一、被控訴人主張の前記第一項の、(イ)のうち被控訴人の先代千太郎が昭和一七年一〇月三日に死亡し、そのため被控訴人が本件各土地についての賃借人の地位を承継したことは認める。同じ第一項の、(ロ)の事実は認める。
二、控訴人の先代金作は昭和二〇年春頃、訴外小笠原英二郎の仲介により被控訴人が国から賃借していた本件各土地および訴外地を期間を定めないで賃借した。
三、岩手県農地委員会は昭和二四年一二月二日、東北財務局盛岡財務部においても本件各土地を被控訴人の先代金作が開墾したことを諒承したのでこれを同人に売り渡すことを決定し、同委員会長がその旨を荒沢村農地委員会長に対して通知したところ、同委員会長がさらにこれを金作に伝えたので、同人は直ちに本件各土地の買受申請書を提出した。
四、およそ農地についての所有権の移転がなされるためには、行政上の処分によつて移転する場合を除き、農地法所定の手続を経たうえでなさるべきであつて、これを経ないでされた所有権の移転は当然無効である。しかるに、本件各土地につき国から被控訴人に対してされた所有権の移転は、行政上の処分によるものではなく、私人間の売買と異なるところはないから、農地法所定の手続を経たうえで所有権の移転がなされるべきであるにもかかわらず、これを経ていない。そうすると、国から被控訴人に対してした本件各土地についての所有権の移転は当然無効であり、被控訴人は未だそれら各土地の所有権を取得しておらず、本件仮処分についての被保全権利を有しないから、本件申請は失当である。
と述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
疎明方法として≪省略≫
理由
本件各土地がもと大蔵省の管理にかかる国有普通財産であつたところ、東北財務局盛岡財務部において国有財産法に定める指名競争入札に付した結果、被控訴人が落札してこれを買い受けたこと、およびその買い受け当時における本件各土地のうち二戸郡荒沢村大字荒屋字高畑一六九番の二にある登記簿上の地目原野九反一八歩の現況(事実的状態)が田であり、同所一七一番にある登記簿上の地目山林三反七畝四歩の現況が畑であつたことは当事者間に争いがない。
よつてまず右のように国有財産であつて、しかも売り払い当時の現況が農地である土地を国有財産法に定める手続によつて売り払うことが許されるか否かについて審案する。およそ国有財産を処分するについては国有財産法に定める手続に準拠することをたてまえとするが、他の法律に特別の定めがあるときにはそれにしたがつて処分することを要するところ(国有財産法第一条)、当該国有財産が農地法の対象となる耕地であり、かつ、それを売り渡すのが自作農の創設またはその経営の安定の目的に供するため必要と認められる場合には、農地法に定める手続にしたがつて売り渡すことを要し、同法にその手続規定のない場合および右に該当しない農地を売り払う場合に始めて一般法たる国有財産法の規定に準拠すべきである。すなわち右にあげた要件を具備する農地を売り渡す場合には、当該各省各庁の長(国有財産法第四条第二項参照)より農林大臣に所管換えまたは所属替をしたうえですることを要し(農地法第七八条第一項、第三六条第一項)、農林大臣において所管換を得られないときは当該各省各庁の長および大蔵大臣と協議しなければならない(国有財産法第一二条)。ところで被控訴人が本件各土地を国から買い受けた当時における現況がいずれも農地であり、しかもそれは国有財産法に定める手続によつて買い受けたものであつて、農地法所定の手続を履践していないことは前示のとおりである。よつて進んで、本件各土地が農地法の対象となる農地であるのか、もしそうであるとしてもこれを売り渡すことが自作農の創設またはその経営の安定の目的に供するため必要と認められるものであるか否かについて考察する。
(一) 農地法にいわゆる農地は耕作の用に供される土地を指称し(同法第二条第一項)、当該の土地が農地であるか否かは、土地台帳または登記簿などにおける地目の記載などとはかかわりなく、もつぱらその土地の現況にもとづいて判断すべきであるが、これに該当する土地のすべてが農地法の対象となるものではなく、農地以外の土地を第三者が何ら正当な権原にもとづくことなく事実的に農地に転用したような場合は、同法に定める農地の観念には含まれないと解するのが相当である。けだし農地以外の土地についての所有者、賃借人その他の権利者が不知の間に、もしくはその意に反して、何ら正当な権原を有しない第三者がその土地を現実に農地に転用した場合も農地法の対象になる土地として同法の規制を受けることになると、事情のいかんによつては本来の権利者の権利が買収などによつて失われ、事実上不法行為によつて正当な権利の侵害されることを認めるような結果を招来しとうてい是認できないし、また農地法の趣旨が、農地の判断をするにあたりいかに現況を重視しこれを基準として決定するとしても、右のような不法な事態のもとに農地となつたものまで本来の権利者の犠牲において同法の理想を実現しようとしているとは考えられないからである。
そこで本件各土地を被控訴人が買い受けた当時、それが農地の現況となるにいたつた経過、ことにそれが正当な権原を有するものによつて農地とされたものであるか否かが争点となるわけであるが、控訴人は被控訴人が賃借していたものを控訴人の先代金作が更に被控訴人から転借し、その目的にしたがつて開墾し農地にしたと主張するので、転貸借の基本となる被控訴人の賃貸借関係から順次検討する。
(1) 本件各土地および訴外地がもといずれも帝室林野局の管理にかかる皇室財産であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七号証、当審における被控訴本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第二五号証およびその本人尋問の結果を考えあわせると、被控訴人の先代滝野千太郎が明治三五年一月二九日頃、右の各土地を含む二戸郡荒沢村大字荒屋字高畑九五番の四のうち八反七畝六歩を御料局(帝室林野局の前身)から開墾の目的で賃借していた訴外亡大森卯之吉の相続人同マツより同人の親権者同セキを介して賃借権の譲渡を受け、同局よりその後改めてこれを開墾の目的をもつて賃借したことが認められ、これに反する疎明はない。千太郎が右の各土地を賃借したのち、その土地は一六九番、一七〇番、一七一番と三筆に分筆され、また千太郎においてその一部を開墾して水田としたこと、千太郎が昭和一七年一〇月三日死亡したため、その後は被控訴人が賃借人たる地位を承継し引き続き右の土地を賃借していたことは当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第七(同第一七号証に同じ)、第一三号証、成立に争いのない同第八号証の一部、前示証人細矢正太郎の証言および同被控訴本人尋問の結果を総合すると、被控訴人の先代千太郎が本件土地をその他の土地とともに御料局から賃借した当時にはその期間を三ヶ年と定めていたが、その後たびたび契約を更新し、期間を二年ないし三年とし、後には一年と改め、その終期をそれぞれ当該満期の年の一二月末日としていたこと、更新の方法としては賃借人である千太郎またはその死亡後においては被控訴人において継続願を出せば多少時期が遅れても(約定期間満了後)必ず許可されたこと、千太郎の死亡後は被控訴人において賃料を支払つてきたが、同人は昭和二一年一一月一八日付岩手荒屋郵便局受理の振替貯金をもつて同年度分の賃料一二円七九銭を宮内省に納入したけれども、その後は契約の更新も賃料の支払いをもしていないことが認められ、右に反する証第八号証中の記載の一部(前示認定部分を除く)はたんに賃貸借契約の例文とみるべきであり当事者を拘束するものとは考えられないのでこれをたやすく信用することができず、他に右の認定を覆すに足る疎明はない。
右認定の事実からすれば、被控訴人の先代千太郎または被控訴人と御料局ないし帝室林野局との間における本件各土地の賃貸借はすくなくとも昭和二一年一二月末日まで継続していたとみるべきである。したがつて、その後においてもなお、右の契約が引き続き継続していたか否かが争点となるが、前示のように本件各土地はいずれも国有の普通財産であつて一般の私人にたいし開墾の目的をもつて賃貸されたものであることのほかに、右認定のような契約の更新状態をみると、その法律的性格は民法上の賃貸借を基礎とする継続的契約関係というべきである。本件各土地の賃貸借関係が右のようなものであるとすると、その賃貸借契約において約定期間の定めがあつても、その満了により契約関係は直ちに終了することなく、とくに当事者間においてその関係を終了させる旨の合意、もしくは契約の解除がなされない限り、所定の期間が満了するとともに期間の定めのない賃貸借に転換し、その法律関係が継続すると解するのを相当とする。
そこで被控訴人と本件各土地の所有者との間において前示賃貸借契約を終了する旨の合意、もしくは契約解除がなされたか否かについて案ずるに、本件土地が昭和二二年四月一日財産税による物納によつて国の所有となり大蔵省が普通国有財産として管理していたことは成立に争いのない甲第一〇、一一号証によつてこれを認めることができ、これに反する前示証人細矢正太郎の証言は右の証拠にてらすと措信できない。成立に争いのない甲第二二号証、および前示被控訴本人尋問の結果によると、被控訴人およびその娘滝野ヤスは昭和二二年以降は本件各土地につき被控訴人は何らの権原をも有しないと供述するが、全疎明方法を検討してみても控訴人の先代金作が本件各土地の開墾を終了した昭和二四年頃までに、それら各土地の賃貸人、すなわち当初は帝室林野局、後には大蔵省との間においてその土地についての賃貸借契約を終了させる旨の合意、もしくは契約解除のあつたことを認めるに足る証左がないから、右の各供述は措信することができず、結局本件賃貸借契約は昭和二二年一月一日より同年三月末日までは帝室林野局を賃貸人とし、同年四月一日よりすくなくとも金作が本件各土地を開墾しこれを農地とした昭和二四年頃までは大蔵省を賃貸人とする期間の定めのない賃貸借が継続していたというべきである。なお被控訴人において昭和二二年一月一日以降の賃料を支払つていないことは前示のとおりであるが、賃料の不払は契約解除の事由となることはあつても、それによつて当然に賃貸借が終了するものではないから、その一事によつて被控訴人が賃借人たる地位を失うことはない。
(2) つぎに被控訴人の先代金作が昭和二一年頃から同二四年頃までにかけて農地でなかつた本件各土地を開墾しこれを農地としたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一、二号証、同第一〇、一一号証、成立に争いのない甲第二二号証の一部および原審における証人五日市佳一、前示被控訴本人尋問の結果の一部を総合すると、控訴人の先代金作の家と被控訴人の家とは徒歩約五分の近隣にあつて、もと両名は極めて懇意な間柄であり、また両名の住居から本件各土地の所在地までにともに約三〇分の距離のところにあること、戦争の激しくなつた昭和一七、八年頃から被控訴人方では手不足となり本件各土地を耕作する余力がなくなつたためそのままの状態で放置し、さきに開墾していた一部の土地も荒廃に委ねていたこと、昭和二〇年春頃控訴人の先代金作が訴外小笠原某を通じて被控訴人に対して本件各土地の開墾耕作方の許容を交渉したこと、金作が昭和二〇年春頃より同二四年頃にかけて約四年間の長期にわたり右の各土地を逐次開墾して田または畑としこれを耕作しているのを一般の部落民や被控訴人も知つており、金作がこれを被控訴人から賃借したと他の人々に述べていたのに、被控訴人は本件が訴訟になるまで格別異議を述べなかつたこと、金作および控訴人の右耕作関係が適法な賃貸借にもとづくものであるとして居村農業委員会に届け出られていること、金作が賃借による対価の趣旨で右土地から収穫した豆類を被控訴人に対し物納したことがそれぞれ認められる。右認定に反する甲第四、六号証、同第二二号証の一部(前示認定部分を除く)、前示証人細矢正太郎の証言、同被控訴本人尋問の結果(前示認定部分を除く)はいずれも前記各証拠に対比するとたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足る疎明資料はない。また本件各土地に隣接する訴外地を金作に対し被控訴人が昭和二〇年春頃に賃貸(転貸)したこと、および本件各土地とほぼ同様な時期に被控訴人が開墾耕作していた右訴外地が農林省に所管換となり、昭和二三年四月一日付をもつて旧自作農創設特別措置法に定める手続を経て国から金作に売り渡されたことは当事者間に争いがない。以上の各事実を考えあわせると、昭和二〇年春頃控訴人の先代金作と被控訴人との間に本件各土地および訴外地を開墾しこれを耕作する目的で、賃料は金銭以外の物をもつて支払うこととし、期間の定めのない転貸借契約が成立したと認めることができる。なお農地の賃貸借にあたり、前示のように賃借料として金銭以外の物を授受すること(物納)は法の禁ずるところではあるが、これに反して物の授受をしたからといつて、対価の約定のない貸借関係であるとすることはできない。そして全疎明資料を検討してみても、被控訴人と控訴人の先代金作との間で金作が本件各土地の開墾を終了しこれを農地とした昭和二四年頃までに右転貸借契約を終了させることを合意し、あるいはこれを解除したことを認めるものがないから、その転貸借関係もまたすくなくとも同年頃まで引き続き存続しているとみるべきである。
(3) 以上のように被控訴人と控訴人の先代金作との間では本件各土地についての転貸借は有効に成立しているが、ただその転貸借につき賃貸人の承諾がなければこれをもつて対抗することができない。そして賃貸人は賃借人が無断で賃貸借の目的物を他に転貸したときはこれを事由として基本となる賃貸借を解除し、あるいは事情のいかんによつては不法行為による損害賠償を請求しうることが可能であるが、しかしすくなくとも賃貸人が転貸借を承諾するか否かの意思を明示しないまでの間に、転借人が基本となる賃貸借の目的の範囲内で目的物を使用収益したとしても、これをもつて直ちに違法な行為であるとすることはできず、むしろ転借人の行為は正当な権原にもとづくものとして是認すべきである。ところで、前示のように、転借人たる控訴人の先代金作が本件各土地の開墾を終了して農地にした昭和二四年頃までに賃貸人たる帝室林野局、もしくは大蔵省が転貸借を承諾するか否かの意思を明示していないし、また金作は転貸人(賃借人)たる被控訴人の賃借権の目的である本件各土地の開墾という同一の目的のもとに転借し、その趣旨にしたがつて右の各土地を開墾し農地としたのであるから、金作の右所為は正当な権原にもとづいてなされたものであるといいうる。
してみると、本件各土地はもといずれも農地以外の土地であつたが、昭和二一年頃から同二四年頃にかけて正当な権原を有する控訴人の先代金作によつて開墾され農地となつたものであるから、農地法の対象となる農地に該当するものというべきである。
(二) 本件各土地が自作農の創設またはその経営の安定の目的に供するため必要と認められるものであるか否かについて案ずるに、右に該当する事由の存否の終局的判断は、国の総合的な農業政策、とくに農業生産の増進、農業経営の合理化その他諸般の社会的経済的条件に関する専門的な政策的、技術的考量に立脚して関係行政機関の認定するところであるが、本件各土地のようにたとえその所有者が国であつても、それが農地法の対象となる農地でありこれを一般私人に売り渡す場合には、特別の事情がない限り、右の事由に該るものとし農地法の規制を受け同法所定の手続にしたがつて売り渡すべきである。しかるに全立証によつてみても、本件各土地が自作農の創設またはその経営の安定の目的に供するため必要でないと認めるに足る特別の事情が存在することについての疎明がないばかりか、かえつて成立に争いのない乙第三、五、六、八号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証に、原審における証人五日市佳一、当審における証人種市正一郎の各証言を総合すると、控訴人の先代金作より昭和二二年九月一四日付の書面をもつて岩手県知事に対し本件各土地を旧自作農創設特別措置法により買い受けたい旨を申し立て、また被控訴人も同様の申立をしたこと、岩手県農地委員会長から同二四年一一月二日付の書面で地元の荒沢村農地委員会長に対し本件各土地のうち現況農地の部分も盛岡財務部と協議して所管換をするから承認申請書を提出せよとの指示があつたこと、同年一二月一六日同村農地委員会が右の指示にもとづき本件各土地を自作農創設の目的に供するのが相当であると認め、所管換手続をしたうえ金作に売り渡すことを承認する旨の決議をし所定の手続を進めたこと、同二七年六月二日同村農地委員会が右の決議を再確認したことが認められる。
そうだとすれば、本件各土地が何人に対して売り渡されるのが相当であるかは別として、これが自作農の創設またはその経営の安定の目的に供するため必要と認められる農地に該当するというべきである。
これを要するに、本件各土地はいずれも農地法の対象となる農地であり、かつ自作農の創設またはその経営の安定の目的に供するため必要と認められるものであるから、これを一般私人に売り渡すためには、大蔵大臣において農林大臣に所管換をしたうえ農地法に定める手続に準拠してするべきであるにもかかわらず、これに依拠することなく国有財産法に所定の手続によつて被控訴人に売り払つたことは違法である。そしてこのような農地法の規定に反する違法な手続にもとづく売買は無効と解するを相当とするから、被控訴人は本件各土地についての所有権を未だ取得していないというほかはない。
そうすると、本件における疎明関係のもとにおいては、被控訴人の主張する被保全権利の存在を肯認することはできないし、また右のような認定のもとにあつては、被保全権利その他の疎明に代えて保証を立てさせ申請を許容することは相当でないから、本件仮処分申請はその余の点につき判断するまでもなく失当であり、本件控訴は理由がある。よつて原判決および原裁判所が同庁昭和三一年(ト)第一九号仮処分申請事件について同年五月九日にした仮処分決定をそれぞれ取り消し、被控訴人の右仮処分申請を却下し、訴訟費用は第一、二審とも敗訴した被控訴人に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡垣学 裁判官 須藤貢 山路正雄)